AI・生成AIGoogleのAIエージェント専用基盤「Agent Compute Engine」はなぜ必要なのか。20万体規模の実証実験と新しいガバナンス機能を確かめる
AIエージェントが仕事を代行する時代へ、Googleが用意した専用コンピューティングと新しいガバナンス機能の中身を一次資料で確かめた
まず初めに
「エージェント専用のコンピューター」と聞くと、また大仰な名前を付けたなと思う。だが中身を見ると、要するに「高速に起動し、待機中は休止できる隔離された小さな実行環境を、工場みたいに用意する箱」という話だ。AIエージェントが増えすぎて収容が追いつかなくなったから、専用の収容施設を建てた——そう理解しておけば大体合っている。別に発表されたAgent Substrateで20万体規模を検証した、という数字だけは普通に恐ろしい。
※個人の感想です
何が起きているのか
Google Cloud(著者:プロダクト管理担当VPのNirav Mehta氏、VP/GMのMichael Bachman氏、プロダクト管理担当VPのKevin Hutchins氏)は2026年10月22日、AIエージェント向けの技術者向けイベント「AGNTCon + MCPCon」において、AIエージェントを動かすための専用コンピューティング基盤「Agent Compute Engine」と、エージェント管理機能(ガバナンス)の拡張を発表しました。
Agent Compute Engineは、Googleの業務支援AIエージェント「Gemini」をすでに動かしている基盤で、「hardware-isolated runtime sandbox security(ハードウェアで隔離された実行環境のセキュリティ)」を提供するとされています。特長として、起動が速い「マイクロVM」(高速起動と隔離に適した小型の仮想マシン)が、同じOSのひな形を複数のエージェントで共有しながら動く「copy-on-write」という仕組みや、使っていないマイクロVMを一時停止・素早く復元する機能が挙げられています。さらに各マイクロVMにはHyperdiskが割り当てられ、複数の長期セッションをまたいで作業領域やエージェントの文脈を保持できると説明されています。セキュリティ面では、Googleが独自に開発したオフロード用IPU「Titanium」の上で動作し、ハードウェアで隔離された「Cloud Hypervisor」の境界、各マイクロVMごとの短時間だけ有効な認証情報(short-lived credentials)が使われるとしています。Agent Compute Engineは「数か月以内にプレビュー提供を始める」とされ、利用者自身が作ったエージェントで使えるようになるのは「soon(近日中)」としています。
同時に発表された「Agent Substrate」は、GKE(Google Kubernetes Engine)上で使えるオープンソースの実行基盤です。「zero-trust architecture(ゼロトラスト、何も無条件に信頼しない設計)」を採用し、エージェントの実行とマシン管理を切り離しているとされています。Googleが示したベンチマークでは、20万体のエージェントを使った検証で、1秒あたり500件のエージェント起動を、再開までの待ち時間500ミリ秒未満で処理できたとしており、従来型のコンピューティングと比べて最大10倍高い処理密度を実現できるとしています。セキュリティ面では、利用者が「マイクロVM」か「gVisor」(Googleが開発したサンドボックス技術)のいずれかを選べ、各エージェントに暗号学的に安全な識別情報を割り当て、ネットワークへの出入り口(egress proxies)で通信制御と認証情報の管理を行うとされています。Agent Substrateは、Claude Code・OpenClaw・Hermesを含む、どのエージェントの仕組み(フレームワーク)でも動作するとされています。
エージェント管理機能の拡張としては、既存の「Agent Gateway」(通信の交通整理役)、「Agent Registry」(承認済みのエージェント・ツール・MCPサーバーなどの一覧管理)、「Agent Identity」(SPIFFEというオープン標準に基づく個体識別)、「Agent observability」(OpenTelemetry準拠の監視)に加え、Google Cloud上の各実行環境(Agent Runtime、Cloud Run、GKE、Agent Compute Engineのプレビュー)全体への管理範囲拡大、複数クラウド・オンプレミス環境への対応(Envoyプロキシ利用、近日プレビュー)、そして社内PC上で動くコーディングエージェント(Claude Code・Antigravity CLI)をOSレベルのサンドボックスで管理する仕組み(近日プレビュー)が発表されました。Agent Gatewayには、トークン使用量・コストの管理、適切なAIモデルへの振り分け(モデルルーティング)、Ping Identity・SailPoint・Saviyntといった認証サービスとの連携強化などの新機能が、今四半期中にプレビュー予定だとされています。発表内容には、これらサービスの料金に関する記載はありません。
なぜ重要なのか
この発表が重要な理由は、AIエージェントが「試験的な導入(パイロット)」から「複数の環境で同時に動く本番運用」へ移る中で、管理されないまま増え続ける「シャドーAI」や、エージェント経由の情報漏洩、行動の追跡・検証の難しさといった課題が、企業にとって現実的なリスクになってきているという点です。Googleは、こうした課題に対応するため、コンピューティング基盤そのものと、管理機能(ガバナンス)の両方を同時に強化する必要があるとしています。
もう一つの重要な点は、実際に導入している企業のコメントが示されていることです。AI企業Nous ResearchのHervé Bizira氏(チーフビジネスオフィサー)は、Agent Substrateによってエージェントごとの隔離とアクセス制御をプラットフォーム側で処理できるようになったとコメントしています。また、化粧品大手ロレアルのAlexandre Frizzo氏(AI部門リードエンジニア)は、「Beauty Tech Agentic Platform」を通じて、社内の複数チームがAIエージェントを日常業務に取り入れつつある中、Google Cloudの管理機能がその拡大を支える基盤になっているとコメントしています。
私たちへの影響
今回の発表で直接の対応が必要になるのは、Google Cloud上でAIエージェントを開発・運用している企業の開発者・運用担当者です。Agent Substrateはオープンソースとして今すぐGKE上で試せる一方、Agent Compute Engine自体のプレビュー利用開始は数か月先とされています。
一般の消費者が直接何かの対応を取る必要はありません。ただし、普段利用しているGoogleのAIサービス(Geminiなど)が、裏側でこうした専用基盤に支えられることで、応答の速さや安定性が向上する可能性があります。一方で、AIエージェントが企業の業務データに触れる機会が増えることは、消費者自身のデータがどのように扱われるかという点にも間接的に関わってきます。
初心者が知っておくべきこと
マイクロVM(マイクロ仮想マシン)とは、隔離された実行環境を比較的素早く起動できる小型の仮想マシンです。Agent Compute Engineでは、待機中の休止と復元に加え、Hyperdisk上の作業領域やエージェントの文脈をセッションをまたいで保持できると説明されています。マイクロVMという名前だけで、実行後にデータが必ず消去されるとは判断できません。
ガバナンス(governance)とは、ここでは「誰がどのAIエージェントを使えるか」「エージェントがどのデータ・ツールにアクセスできるか」「エージェントの行動を後から追跡・検証できるか」を管理する仕組みのことです。AIエージェントが増えるほど、個々のエージェントを野放しにせず、組織として統制する必要性が高まります。
Q. この基盤は、個人の開発者やスマートフォンアプリにも関係しますか。
A. Agent Compute Engineは、企業がGoogle Cloud上でAIエージェントを運用するための基盤であり、個人のスマートフォン利用には直接関係しません。ただしAgent Substrateはオープンソースのため、技術的な知識があれば個人でもGKE上で試すことができます。
IT Postの見方——エージェントを檻に入れる技術は、誰を安心させるためのものか
IT Postは、AIエージェントが企業の業務データやツールに触れる機会が増える中、エージェントごとに実行環境を隔離し、行動を追跡できるようにする今回の取り組みは、必要な方向性だと考えます。「シャドーAI」や情報漏洩のリスクが現実のものになっている以上、専用の収容施設と管理の仕組みを整えることは、企業がAIエージェントを安心して使い続けるための前提条件になります。
一方で、IT Postでは、今回コメントを寄せている企業(ロレアル、Nous Research)がいずれも相応の規模と技術力を持つ組織である点には留意が必要だと考えます。Googleが独自開発したIPU「Titanium」やGoogle Cloud特有の管理機能に基盤を委ねることは、便利さの裏側で、特定のクラウド事業者への依存(ベンダーロックイン)を深める選択でもあります。中小規模の開発者が、この規模の基盤を実際にどこまで使いこなせるのか、料金体系が明らかになっていない現時点では判断しづらいとIT Postは見ています。
※個人の感想です
今後どうなりそうか
発表時点では、Agent Compute Engineの具体的な料金や、利用者自身のエージェントへの対応開始時期は明らかにされていません。IT Postでは、Agent Compute Engineのプレビュー提供が始まり、料金体系や利用企業の実例が公開された時点で、あらためて取り上げます。