AI・生成AI Kimi K3.1 Proの重み、約束どおり11月4日にHugging Faceへ。2.8兆パラメータ・96分割の「開けてはいるが業務用は別契約」ライセンス Moonshot AIは2026年11月4日、総パラメータ2.8兆・活性化1040億のマルチモーダルモデル「Kimi K3.1 Pro」の重みをHugging Faceで公開した。10月23日の発表時に予告した期限どおりで、重みはMXFP4の4ビット形式、96ファイルに分割して配布される。独自ライセンスは個人・通常利用には広く開く一方、モデル提供事業の年商が2000万ドルを超える場合は別途契約を求める。モデルカードの仕様と同社測定の評価値を整理した
まず初めに
2.8兆パラメータの重みを「はい、どうぞ」と置いてくる度胸は認める。ただし中身は4ビットに圧縮され、ファイルは96分割、置き場所はサーバーの倉庫である。一般家庭のパソコンに降りてくる代物では到底ない。それでも「API越しに借りる」しかなかった最大級モデルが「自分の倉庫に置ける」側へ回った事実は重い。開け方は相変わらず一筋縄ではいかないが、扉そのものは開いた、という話である。
※個人の感想です
何が起きたのか
Moonshot AIは、Kimi K3.1 Proを2026年10月23日に発表し、API経由の提供を始める一方で、重みの公開を11月4日までに行うと予告していました。RuntimeWireによると、同社は11月4日にXで重み公開を告知し、Hugging Faceの公式リポジトリ「moonshotai/Kimi-K3.1-Pro」へのリンクを示しました。リポジトリのモデルカード(モデル仕様書)には、モデル本体のファイル一式、評価結果、推論の実行手順、ライセンス本文がまとめて置かれています。
モデルカードはK3.1 Proを「オープンな重みを持つ、生まれつきマルチモーダルなエージェント向けモデル」で、同社として最も高性能な「3兆級」モデルだと位置づけています。前世代のKimi K3を土台に、数百の用途領域にわたる大規模な強化学習で追加学習した、K3.1系列の最初のモデルだと説明しています。前世代のK3については中国発「Kimi K3」の記事 で整理しています。
Moonshot AIのモデルカード(Hugging Face)とライセンス本文をもとにIT Post編集部が作成した図解です。 IT Post編集部
仕様——2.8兆のうち、毎回使うのは1040億
モデルカードに記載された主な仕様は次のとおりです。
項目
仕様
構造
専門家の混合型(MoE)、93層
総パラメータ
2.8兆
活性化パラメータ
1トークンあたり約1,040億
専門家(エキスパート)
896個、そのつど16個を選択、共有専門家2個
文脈の長さ
1,048,576トークン(約100万)
入力
テキストと画像(視覚エンコーダ「MoonViT-V2」、約4億100万パラメータ)
重みの形式
MXFP4(4ビット)、活性化はMXFP8。量子化を学習に組み込む方式で作成
「専門家の混合型」は、多数の小さな専門モデルのうち入力に合った一部だけを動かす構造です。総量2.8兆という数字の大きさに対して、1回の処理で実際に計算するのは約1,040億パラメータ分にとどまります。それでも重みファイル全体を置く場所は必要で、モデルカードの案内ではファイルが96分割(model-00001-of-000096形式)で配布されています。
K3からの変更点として、モデルカードは、長い文脈を効率よく扱うために注意機構の一部を「Gated DSA」という方式へ置き換えたことを挙げています。
評価結果は同社測定——強い分野と、弱さが表に出た分野
モデルカードには同社による評価表が載っています。条件は原則として推論の努力量「最大」、温度1.0、トップp 0.95で、他社モデルの数値は各社の公表値や公式リーダーボードからの引用が混ざっています。代表的な値は次のとおりです。
評価
K3.1 Pro
主な比較対象
Terminal-Bench 4.0(コーディング)
65.7
Claude Opus 5.5 が66.4、GPT-6 Astra が58.2
DeepSWE v1.1(コーディング)
75.5
DeepSeek-V4.1-Flash-1017 が77.0
BrowseComp(調査エージェント)
92.1
GPT-6 Astra が91.5
GPQA-Diamond(知識・推論)
94.2
GPT-6 Astra が96.1
ExploitBench(セキュリティ)
74.7
GPT-6 Astra が100、Claude Opus 5.5 が91.0
ExploitGym(セキュリティ)
20.7
GPT-6 Astra が42.4
コーディングや調査系では最上位級の数字が並ぶ一方、セキュリティ系の2指標では他社の最高値との差が大きく開いています。これらの数字はMoonshot AI自身の測定・集計であり、第三者が公開された重みで再測定した結果ではありません。重みが公開されたことで、今後は外部の検証が可能になる、というのが今回の公開の実務的な意味です。
使い方と、つまずきどころ
APIは同社のプラットフォーム(platform.kimi.ai )で、モデル名「kimi-k3.1-pro」を選んで使えます。OpenAI互換・Anthropic互換のインターフェースが用意されている、とモデルカードは案内しています。自前で動かす場合の推奨実行環境はvLLM、SGLang、TokenSpeedの3つで、それぞれの手順書へのリンクがモデルカードにあります。
注意点もモデルカードに明記されています。推論の努力量はリクエストの「reasoning_effort」欄で「low」「high」「max」から選び、既定は「max」です。複数往復の会話やツール呼び出しでは、APIが返したアシスタントのメッセージ全体(思考内容の「reasoning_content」やツール呼び出しを含む)を、そのまま次のリクエストに渡し直す必要があります。本文だけを抜き出して渡すと、挙動が崩れる設計だということです。
ライセンス——「開いている」が、業務の規模で条件が変わる
重みは「Kimi K3.1 Pro License」という同社独自のライセンスで提供されます。MITライセンスに近い文面で、利用・複製・改変・配布・再ライセンス・販売、実行・展開・追加学習・派生物の作成まで広く認めています。そのうえで、次の2つの条件が付きます。
モデル提供事業(第三者が入力やパラメータを実質的に操れる形で推論や追加学習へのアクセスを提供する事業、MaaS)を営み、自社と関連会社の合計売上高が連続する12か月で2,000万ドルを超える場合は、商用利用の前にMoonshot AIと別途契約を結ぶ必要があります。社内利用や、同社の公式製品・認定パートナー経由の利用は、この条件の対象外です。
重みまたは派生物を使った商用製品・サービスが、月間アクティブ利用者1億人超、または月商2,000万ドル超の規模になった場合は、利用画面に「Kimi K3.1-Pro」の名称を目立つ形で表示する必要があります。
著作権表示とライセンス文の同梱も条件です。いずれも、個人の試用や通常の製品組み込みでは発動しにくい水準に線が引かれていますが、「無条件で自由」とは違うことは、商用利用の前に確認しておく必要があります。
IT Postの見方
IT Postでは、今回の要点は性能の数字ではなく、「約束した日に、検証可能な形で重みが出た」ことだと考えます。APIの向こう側にあるモデルは、提供会社の自己申告を信じるしかありません。重みが手元に来れば、少なくとも同じ物差しで測り直すことはできます。評価表でセキュリティ系の数字が他社に大きく離されていることも含めて、同社が表を隠さずモデルカードに載せた点は、検証する側にとっては好材料です。
一方で、2.8兆パラメータの重みは、置ける場所を持つ組織だけの道具です。IT Postでは、「オープンな重み」の恩恵はまず、大きな計算資源を持つ事業者と研究機関に届き、一般の開発者にとっては当面、APIの価格と性能の競争として効いてくると考えます。ライセンスの2,000万ドル条項も、その構図と地続きです。扉は開いたが、扉の先の部屋は広い、というのが実感に近いでしょう。
今後どうなりそうか
今後の確認点は、公開された重みでの第三者による再測定がいつ、どの評価から出てくるか、推論基盤の各社がこのモデルの提供を始めるか、そして同社が予告していた他のK3.1系列モデルの展開です。
日本語の読者にとっては、まずAPI経由で試し、業務に組み込む場合はライセンスの2条件に触れないかを規模の見通しとあわせて確認する、という順番が現実的です。新しい公式情報が確認できれば、続報として整理します。