AI・生成AIAppleを批判してきたMetaが、Macを推す。Muse Spark Openが映すAI時代の利害一致
Metaが2026年10月15日にMuse Spark Openの重みを公開。M5 Ultra搭載Mac Studioでの実行結果をAppleも発表した。意外な組み合わせの意味と、必要メモリ、性能、商用ライセンスの条件を確かめる
まず初めに
かつてAppleの囲い込みを名指しで批判したMetaが、今度はMac Studioを自社AIの見せ場に選んだ。昨日の口論はどこへ、と言いたくなる絵面だ。ただし机の上に並ぶのは、大容量メモリを積んだMac Studioが2台か4台。「自分のパソコンで動く」という言葉だけで買い物を始めると、机の広さから考え直すことになる。※個人の感想です
何が起きているのか
Metaは10月15日、「Muse Spark Open」の重みを公開しました。同日のMeta公式発表は、AppleのM5 Ultraを搭載したMac Studioを実行環境として挙げています。Appleも同日、MLXによる複数Macでの推論結果を発表しました。発表日とこの記事の公開日である10月16日は別です。
この組み合わせが意外なのには理由があります。MetaのMark Zuckerberg氏は2024年7月の公式寄稿で、Appleのプラットフォーム上ではAppleが認める範囲に製品開発を制約されてきたと述べ、開かれたAIを支持する理由の一つに挙げました。今回確認できるのは、Metaの公開モデルをApple siliconとMLXで動かすための対応とAppleによる測定です。両社の包括的な提携、Siriへの採用、Apple Intelligenceへの統合を示す発表ではありません。
なぜ重要なのか
Muse Spark Openは、全体で8160億個のパラメータを持ち、各トークンの処理で約420億個を使うMoE型モデルです。MoEは処理に応じて一部の「専門担当」を選ぶ方式で、毎回すべてを計算する負担を抑えます。ただしモデル全体を置くメモリは別に必要です。最大のコンテキストウィンドウは104万8576トークン。入力は文章・画像・音声・動画、出力は文章だとMetaの技術概要に記されています。画像や動画を入力できることは、それ自体を出力として生成できるという意味ではありません。
重みを取得して自前の設備で動かせる「オープンウェイト」は、処理を外部APIに任せる以外の選択肢を増やします。以前のIT PostのMuse Spark 1.3記事で今後の予定として触れた、Muse Sparkの重み公開が実現した形です。一方、入手できることと、手持ちのMac1台で動くことは同じではありません。
Mac Studioは何台必要か
Metaの公式構成では、M5 Ultra搭載Mac Studioを2台使うなら各512GB、4台なら各256GBのユニファイドメモリが必要です。どちらも合計は約1TB。ユニファイドメモリはCPUとGPUが共通に使うメモリです。MLXの実行手順には、各MacのmacOS 26.2以降、MLX 0.30.1以降、Mac同士を直接結ぶThunderbolt 5接続などの前提が記されています。MLXはモデルを分けて複数台で処理し、RDMAという通信手段を使います。
Appleによると、Muse Spark Openを4ビットのNVFP4形式にしても、計算中の領域を含めればMac Studio1台には収まりません。Appleの技術記事が示す「机の上で動く」は、通常のMac1台で気軽に動くという意味ではないのです。設置や購入、運用にかかる費用も考える必要がありますが、本記事では費用を実測・見積もりしていません。
約25トークン毎秒、その条件
Appleの表3では、M5 Ultra搭載Mac Studioを2台使ったテンソル並列処理で毎秒24.99トークン、4台で36.73トークン。2台の別方式であるパイプライン並列処理では15.74トークンです。Muse Spark OpenをNVFP4形式で評価し、8192トークンの文脈に続いて128トークンを生成した際の文章生成速度です。つなぎ方と処理の分担方式によって結果が異なります。
トークンは文章処理の単位で、日本語の文字数とは一致しません。これらの数値は、コード修正とテストが終わるまでの時間や、最大約100万トークンの文脈を使ったときの速度を示しません。IT Postは実機測定をしていません。
性能比較も範囲を確認する必要があります。Metaの比較表では、外部ツールを使うMCP-Atlasが89.2、端末操作などを評価するTerminal-Bench 2.1が76.4。一方、同じ表のTerminal-Bench 2.1ではKimi K3が85.0です。「最も高性能」というMetaの表現には「米国の研究機関が開発したオープンウェイトモデル」という限定が付きます。評価方法の資料も、公式ランキング、Metaの内部測定、開発元の自己申告を使い分け、他社モデル向けに評価環境を個別最適化していないと説明しています。すべて同一条件の独立試験ではありません。
「Open」にも利用条件がある
Muse Model Licenseは改変・再配布などを認める一方、利用ポリシーの遵守やライセンスの引き継ぎを求めます。モデルまたは派生モデルを使う製品・サービスには「Built with Muse Spark Open」を画面、文書、ウェブサイト、設定メニューなどに表示する条件があります。
特に、AIモデルをAPIなどで第三者に提供する「Model as a Service」には第3項の条件があります。利用者と関連会社の合計総収益が連続する12か月間に2000万米ドルを超える場合、このモデルや派生モデルをその事業で提供する前にMetaへ通知し、別途書面契約を結ぶ必要があります。判定するのはモデル単独の売上ではなく、利用者と関連会社の合計総収益です。一方、第3項は、社内利用、研究、Model as a Serviceに当たらない商用活動、自社製品の機能を支える用途には適用しないと明記されています。自社の提供形態はライセンス原文に照らして確認してください。
私たちへの影響
開発者が自前で動かす場合、入力する文書やコードをモデル処理のために外部APIへ送らない構成を選べます。ただし、検索サービスや外部ツールをつなげれば、データの行き先は別途確認が必要です。ローカル実行だけでシステム全体の安全性は決まりません。Metaの技術概要は、自前の設備に加え、Together AI、Fireworks AI、OpenRouterなどの提供経路も案内しています。
Metaのモデルカードは、現実の操作を行うエージェントとして使う場合、取り消せない操作の前に人の確認を挟むなどの追加策を勧めています。モデルの置き場所を選べることと、運用を任せきりにできることも別です。
初心者が知っておくべきこと
Q. 「オープンウェイト」なら無料で自由に使えますか。
A. 重みを入手して自前で動かせますが、Muse Model Licenseの表示・利用条件が付きます。必要な機器や運用の費用も別です。IT Postはその費用を実測していません。
Q. SiriやApple IntelligenceにMuse Spark Openが入るのですか。
A. MetaとAppleの今回の発表では確認できません。Appleが公開したのは、MLXで複数のMac Studioを使ってモデルを実行・測定した結果です。
IT Postの見方――思想は違っても、机は共有できる
IT Postでは、今回の組み合わせをAIの実行場所をめぐる利害の一致と見ます。Metaにはモデルを動かす開発者と環境を増やす理由があり、Appleには大容量メモリを積んだMacの使い道を示す理由がある。思想まで握手しなくても、同じデモなら一緒に見せられるわけです。
利用者にとって重要なのは、モデルの置き場所を選べるようになったこと。ただし重みを持てても、実行環境、保守、ライセンスから自由にはなれません。「Open」の看板を喜ぶ前に、約1TBのメモリと利用条件を読む。夢を買う前の仕様書が、今回はずいぶん分厚い。※個人の感想です
今後どうなりそうか
両社が発表したのは公開モデルのMacでの実行と測定です。将来の共同製品やAppleのサービスへの採用は、現時点で確認できません。IT Postでは、対応環境の変化や独立した性能・運用費用の検証が出た場合に、その条件を改めて確認します。