AI・生成AIGoogleの新しい予測AI「TimesFM 3.0」はなぜBigQueryだけで完結するのか。3つのベンチマークで首位に立った中身を確かめる
Google Cloudが公式ブログで紹介した、BigQueryにおけるTimesFM 3.0のプレビュー。Google Researchによるモデル紹介は8月31日。従来のTimesFMとBigQuery既存の多変量予測を区別して確かめた
まず初めに
未来を当てる商売はいつの時代も怪しい香りがするものだが、GoogleはそれをSQLの中に埋め込んでしまった。しかも「3つのランキングで全部1位」と、謙遜のかけらもない自己採点を添えてくる。これまでのTimesFM 2.0/2.5は1つの数字をポツンと当てる一発屋だったが、今回はいくつもの指標を同時に、しかも天気や休日まで横目で見ながら予測するという。本当にそこまで賢いなら、ついでに今日の会議が何分で終わるかも予測してほしいところだが、さすがにそこまでは面倒を見てくれないらしい。※個人の感想です
何が起きているのか
Google Cloudは公式ブログで、データ分析基盤「BigQuery」における予測AIモデル「TimesFM 3.0」のプレビューを紹介しました。公式ページは取得時点で表示日が10月12日と13日に分かれ、HTMLの構造化データにも10月12日が記されています。このため、ブログの発表日を一日に断定しません。モデル自体はGoogle Researchが8月31日付の記事で紹介しています。TimesFM 3.0は3億3000万個のパラメータ(モデルの中で学習される数値の集まり)を持つ基盤モデルです。
最大の変更点は、単一の指標だけを予測する「単変量」専用だった従来版(TimesFM 2.0/2.5)に対し、3.0では複数の対象を同時に予測する「多変量」にも対応したことです。公式ブログは、過去の値だけを使う「過去専用の共変量」と、休日やキャンペーンの有無のように未来の時点でも値が分かっている「未来も分かる共変量」の両方を扱えるようになったと説明しています。ベンチマークでは、時系列予測の代表的な公開リーダーボードであるGIFT-Eval・FEV-Bench・TIMEの3つすべてで首位を獲得し、単一指標・複数指標どちらの予測についても、事前に個別学習をしなくても高い精度を出す「ゼロショット」の精度が既存の基盤モデルを上回ったとしています。
また3.0は、既存ユーザーがそのまま乗り換えられることも意識した設計になっています。単一指標の予測に使うAI.FORECAST関数や、異常な値を検知するAI.DETECT_ANOMALIES関数は、呼び出し時に指定するモデル名を「TimesFM 3.0」に変えるだけで、コードを書き換えずに精度向上の恩恵を受けられるとしています。
なぜ重要なのか
従来のBigQuery内蔵TimesFM 2.0/2.5は単変量の予測に限られていました。一方、BigQueryには以前からARIMA_PLUS_XREGモデルによる多変量予測もあります。今回の新しさは、TimesFMの基盤モデルを使うAI.FORECASTでも複数の指標や共変量を扱えるようになった点です。TimesFM 3.0は、関連する複数の指標を1つのモデルでまとめて予測できるため、「平日と休日で客数の動きが変わる」「気温によって需要が変わる」といった、複数の要因が絡み合う実務上の予測問題を、BigQueryのSQLだけで完結させやすくなります。
公式ブログが示したサンプルでは、ニューヨークのシェア自転車サービス「Citi Bike」の公開データセットを使い、定期利用者(subscriber)と単発利用者(casual)の利用回数を、平均利用時間(過去専用の共変量)や週末かどうか(未来も分かる共変量)を手がかりに7日先まで同時に予測するSQL文が示されています。利用者が用意するのは、過去の実績と将来の手がかりを1つの表にまとめたデータだけで、モデルの学習や専用インフラを別途用意する必要はないとしています。自然言語で操作する「BigQuery Conversational Analytics」からも同じ多変量予測を呼び出せ、予測の要約・区間付きのグラフ・注目点を自動生成するとしています。数字の羅列を読むだけで一苦労な人には、地味にありがたい話かもしれない。
私たちへの影響
TimesFM 3.0は企業のデータ分析者やエンジニアが使うBigQueryの機能であるため、一般の利用者が直接触れる場面はほとんどありません。ただし、小売業やサービス業などBigQueryを使って需要予測や在庫管理を行っている企業にとっては、従来のTimesFMでは扱えなかった複数指標や共変量を、AI.FORECASTのSQLから扱えるようになります。
現時点ではプレビュー(試験提供)の段階です。今回の公式ブログには、この機能の料金詳細や正式提供(GA)の時期は記載されていません。TimesFMの公式文書はBigQueryが対応する全リージョンで利用可能と説明しています。利用前には公式の仕様・料金とプレビュー条件を確認してください。既存のAI.FORECASTを使っている企業であれば、モデル名を書き換えるだけで試せる手軽さがある一方、プレビュー段階の機能であることを踏まえ、本番の意思決定にそのまま使う前には十分な検証を行う必要があります。
初心者が知っておくべきこと
「多変量」とは、1つではなく複数の数値をまとめて扱うことを指す統計・AI分野の言葉です。これに対して、1つの数値だけを扱う場合は「単変量」と呼ばれます。
「共変量」とは、予測したい対象(目的の数値)に影響を与える、参考情報として使う別の数値のことです。気温や曜日、キャンペーンの有無などが例に挙げられます。
Q. BigQueryを使っていれば誰でも今日から試せますか?
A. 出典で確認できた範囲では、TimesFM 3.0はAI.FORECAST・AI.DETECT_ANOMALIES関数でモデル名を指定するか、BigQuery Conversational Analyticsから呼び出すことで利用できるプレビュー機能です。TimesFMの公式文書はBigQuery対応全リージョンで利用可能と説明しています。料金やプレビューの利用条件は、利用前に公式の仕様・料金案内で確認してください。
IT Postの見方――「全部1位」はいつだって気持ちいいが、賞状の裏側も見ておきたい
IT Postは、SQLを書くだけで複数指標の予測が完結するようになった点は、分析担当者にとって素直に歓迎できる進化だと見る。これまで別々に動かしていたモデルや集計ロジックを1つの関数に統合できるなら、仕事が1つ減るのは誰にとっても嬉しい話だ。
ただし「3つのベンチマークで全部1位」という景気のいい発表を聞いて、そのまま丸呑みするのは早計だ。ベンチマークというのは、いわば学校の中間テストのようなもので、本番の実務データという名の期末テストで同じ点数が取れる保証はどこにもない。しかも今回はまだ「プレビュー」、つまり正式リリース前の仮免許運転の段階だ。ブログだけでは費用の詳細まで判断できず、対応地域は公式文書と照合する必要がある。採用を決める前には、実データで精度を試し、仕様と料金を確かめたい。使い勝手を確かめるのは大いに結構だが、本番の意思決定を委ねるのは、もう少し様子を見てからでも遅くはない。※個人の感想です
今後どうなりそうか
今回の公式ブログは、TimesFM 3.0の正式提供(GA)時期やこの機能の料金詳細を記載していません。IT Postでは、正式提供や料金に関する続報が確認され次第、あらためて取り上げます。