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Anthropic社員の91%とアメリカの一般成人39%、「AIがノーベル賞級の発見をする」と考える割合はなぜこんなに違うのか。両者の意識調査を読み解く

Anthropic社員1,334人とアメリカの一般成人10,980人を対象にした調査で、AIの将来の能力や失業への予想に大きな差が見つかった。両者の回答の違いを一次資料から読み解いた

30秒で分かる結論

  • Anthropicは2026年10月16日、同社の社員1,334人への調査(2026年8月9〜12日実施、社内から回答した人を集計)と、調査会社Morning Consultがアメリカの一般成人10,980人を対象に実施した調査(2026年8月11〜23日、全国の人口構成に合わせて重み付け)を比較した報告書「The AI expectations gap」を公表しました。
  • 「2030年までにAIがノーベル賞級の科学的発見をできるようになる」と考える人は、アメリカの一般成人で39%、Anthropic社員で91%でした。自分の仕事の80%以上を2030年までにAIが担えると予想したのは、米国の就業者では5%、社員では半数を超えました。
  • 両者は「AIによる仕事の代替が増えるほど失業も増える」という関係では一致していましたが、自分の仕事の80%以上をAIが代替すると見る人の予想失業率は平均12.2%(リーマンショック期のピークを上回る水準)に達するなど、AIとの接し方の違いが将来予想の差につながっているとされています。
この記事の目次 7項目
出典を確認する(1件)
AIの将来像について異なる見方を持つ人々を表したAI生成の概念図
AI生成の説明用概念図です。調査回答者やAnthropic社員の実際の姿ではありません。 IT Post編集部(GPT生成)

まず初めに

自社の商品に惚れ込みすぎる担当者というのは、どの業界にもいるものだが、Anthropic社員の惚れ込みぶりはなかなか振り切っている。「2030年までにAIがノーベル賞級の発見をする」と信じる社員は9割を超えるのに、同じ質問をされた一般のアメリカ人は4割に届かない。しかも調査しているのが他社ではなく、自社のAIを売っている会社自身だというのが、話をさらにややこしくしている。認知にんちバイアスという言葉を使うと上品に聞こえるが、要するに「自分の作ったものを一番信じているのは作った本人たち」というだけの話かもしれない。

※個人の感想です

何が起きているのか

Anthropicは2026年10月16日、公式研究ブログで「The AI expectations gap」という報告書を公表しました。2026年8月、調査会社Morning Consultがアメリカの一般成人10,980人を対象に8月11日から23日にかけて調査を実施し、全国の人口構成に合わせて回答を重み付けしています。これと並行して、Anthropicは8月9日から12日にかけて社員への社内調査を実施し、社内の様々な部署から1,334人の回答を得ました。社員側の回答には重み付けを行っていません。一般成人の回答者を半分ずつ2027年と2030年の質問に分け、社員には全員2030年について尋ねました。報告書では主に2030年の回答を扱っています。

両者の見方は、AIの現在の能力については比較的近いものの、今後の進歩の速さについて大きく食い違っています。「2030年までにAIがノーベル賞級の科学的発見ができるようになる」と考える人は、アメリカの一般成人で39%、Anthropic社員で91%でした(追加で実施した調査では一般成人の回答は44%まで上昇したとしています)。科学研究を自分で設計・実施・論文化できるAIについて、「来年にはできるようになる」と答えた社員は9割に対し、一般成人は38%にとどまりました。8つの課題について「AIには決してできない」と答えた一般成人は19〜40%でしたが、社員は最大でも2%でした。

普及の見通しにも差があります。2030年までにAIによって行われるようになる仕事の割合について、AIが技術的に実行できる仕事を分母として、そのうち実際にAIが担う割合を一般成人は平均42%、社員は平均65%と予想しました。一般成人が挙げた普及の主な障壁は、顧客が人間との対応を望むこと、データのプライバシーとセキュリティへの懸念、AIの信頼性不足、法規制や責任問題の順でした。

AIを使うことでどれだけ作業時間が短縮されるかについても差が見られます。社員の85%は、AIを使うと作業時間が半分以下になると回答しましたが、仕事でAIを使っているアメリカの一般成人は「半分程度」という回答が多く、29%は「変わらない、または増えた」と回答しました(社員でこの回答をしたのはわずか5%)。

なぜ重要なのか

この調査が重要なのは、単なる「期待の差」ではなく、それが実際の失業予想の差にもつながっている点を具体的な数字で示していることです。報告書は、現在の失業率(約4.2%)を踏まえたうえで、2030年の失業率を予想してもらいました。自分の仕事の半分未満がAIに代替されると見る人々は、平均7〜8%の失業率を予想しましたが、自分の仕事の80%以上が代替されると見る人々は、平均12.2%という、リーマンショック期のピークを上回る水準を予想しました。自分の仕事への影響の予想が10ポイント増えるごとに、予想失業率はおおむね0.4ポイント上昇する関連が見られ、これはAIへの楽観・悲観の度合いだけでは説明できないとされています。この傾向は、一般成人・Anthropic社員の両グループで共通して見られたとしています。

報告書は、両グループの経済モデルの考え方自体(仕事の代替が増えれば失業も増えるという関係)は一致しているとしつつ、違いの原因は、AIと実際にどう関わっているかという経験の差にあると分析しています。日常的に仕事でAIを使っている一般成人(回答者の約5分の1)は、AIを使わない一般成人より、Anthropic社員に近い回答をする傾向が示されました。

報告書はさらに、回答を基にした経済モデルへの換算も行っています。回答を経済モデルに当てはめた2030年のGDP成長率の含意を中央値で見ると、アメリカの一般成人は5.4%、Anthropic社員は17.1%でした。別途9月9日に公開された診断ツールに公開後48時間で回答した23,075人では、中央値12.5%と両者の中間的な結果になったとしています。

私たちへの影響

この調査はアメリカの成人とAnthropicの社員を対象にしたものであり、日本の労働市場や企業の実態にそのまま当てはめられるものではありません。また、社員側の調査は重み付けを行っていない社内調査であり、一般成人側もインターネットを使わない人を含まないオンラインパネルによる調査である点には留意が必要です。

とはいえ、AIを開発する企業の内部と、AIを実際に使う立場にある一般の人々との間で、将来予想に大きな差があるという構図自体は、日本でAIの導入や雇用への影響を考える上でも参考になります。AI企業が示す将来予想を見る際には、それが「AIを作っている側の視点」であることを踏まえて受け止める材料になります。

初心者が知っておくべきこと

Morning Consultとは、アメリカの調査会社の名前です。世論調査やマーケティング調査を手がけており、今回の報告書ではアメリカの一般成人への調査を実施した会社として登場しています。

Q. この調査結果は、AIによって実際に多くの人が失業すると確定したことを意味しますか。 A. 記事によれば、これは人々の「予想」を尋ねた調査結果であり、実際に何が起こるかを予測・保証するものではありません。報告書自身も、両グループの回答はあくまで個人の見解であり、企業の計画や確定した将来予測ではないと明記しています。

グラフを描いた挿絵
Anthropicの研究記事のヘッダー画像。 画像提供:Anthropic

IT Postの見方——AIを作っている人ほどAIを信じているという、ごく自然だがちょっと怖い話

IT Postは、この調査結果そのものには驚きが少ないと考える。自社の技術に自信を持っている会社の社員が、一般の人より楽観的な未来を予想するのは、ある意味当然の話だ。自動車メーカーの社員に自動運転の実現時期を聞けば、他の業界より前のめりな回答が返ってくるのと同じ構図である。

むしろIT Postが注目したいのは、「自分の仕事がAIに代替されると思うほど、失業率の予想も上がる」という関係が、楽観的な社員にも悲観的な一般成人にも共通して見られた点だ。立場によって未来の見え方は違っても、「自分の仕事が奪われるなら、社会全体の雇用も厳しくなる」という実感レベルの計算は、意外と全員が同じように行っているらしい。AI企業が発信する将来予想を聞くときは、話し手がどちら側の実感を持っているかを差し引いて聞くくらいの距離感が、ちょうどいいとIT Postは考える。

※個人の感想です

今後どうなりそうか

Anthropicは、今回の調査結果を踏まえ、AIの能力や導入の実態についての情報発信を続けるとしています。報告書は、日常的にAIを使う人の見方が一般成人全体の見方にも影響していく可能性を指摘していますが、具体的な政策提言の時期は示されていません。IT Postでは、同種の調査が他の国・企業で実施された際に、あらためて取り上げます。

訂正履歴

  • 記事内容を補足する画像1点を本文に追加しました。事実関係の変更はありません。

  • 仕事の分母、米国就業者の5%、調査年の質問分岐、GDPのモデル含意と別ツールの公開日を明確化しました。

情報源

「一次情報」は資料の出所を示す区分で、編集部による独立した実測や、すべての主張の実証を示すものではありません。確認の範囲や未確認の点は、本文の説明と併せてご覧ください。

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