AI・生成AIGoogleの「ADK」は5言語で何を共通化したのか。AIエージェント開発を支える設計を確かめる
Googleが2026年10月13日に公開した記事で、Agent Development Kitの5言語版に共通する設計と各言語の特徴を紹介。Go向けの約2MiBは実行ファイルではなく、Google distroless staticのベースイメージ単体の容量である
まず初めに
つい数年前まで「AIエージェントを作る」と言えば、ほぼ問答無用でPythonを覚える話だった。ところが蓋を開けてみれば、同じ開発基盤にGo・TypeScript・Java・Kotlinまで雁首揃えている。まるで「うちは何でも対応します」と豪語する町の電気屋のようだが、今回は看板に偽りがなさそうなのが厄介だ。Androidのアプリエンジニアまで巻き込んで、ネット接続なしでAIエージェントを動かせるところまで用意してくるとは、本気で裾野を広げる気らしい。※個人の感想です
何が起きているのか
Googleは2026年10月13日、Google Cloud Blogで、AIエージェント開発基盤「Agent Development Kit」(以下ADK)のPython・Go・TypeScript・Java・Kotlinという5言語版に共通する設計と各言語の特徴を紹介しました。この記事は5言語への対応が同日に始まったとは示していません。これまで多くのAIエージェント向けフレームワークはPythonを前提に作られていましたが、ADKの各言語版は、それぞれの実行環境や型システムに合わせて作られ、同じアーキテクチャと共通の通信規格を共有すると説明されています。
各言語版には、それぞれの言語の実行環境や型システムに合わせた実装が用意されています。Pythonは試作・評価・Google Cloudとの連携に強く、モデルの切り替え先としてGemini・Anthropic・OpenAI・LiteLLMに対応するアダプターを持つとされています。Goでコンパイルしたエージェントは、約2メビバイト(MiB)のGoogle distroless staticベースイメージに載せられ、Cloud RunやGoogle Kubernetes Engine(GKE)での本番運用に適すると説明されています。約2MiBはベースイメージ単体の容量であり、Goの実行ファイルや完成したコンテナ全体の容量ではありません。TypeScript版はNode.jsに加えてブラウザ上での実行にも対応し、Java版はMaven・Gradle・Spring Bootを使うJVM環境向け、Kotlin版はAndroid上でネットワーク接続なしにAIエージェントのループ全体をローカル実行できる設計だと説明されています。
5つの言語に共通する基盤として、ADKにはすべての言語で「MCP(Model Context Protocol)」のクライアントが組み込まれており、MCPサーバーとして公開された外部のツールをどの言語からでも呼び出せます。また「A2A(Agent2Agent)」という規格を使うことで、異なる言語・フレームワークで作られたエージェント同士がHTTP経由で通信できるとしています。公式ブログは、どの言語を選んでも共通のアーキテクチャとオープンな規格に縛られる設計だと説明しています。
発表では、専用のコマンドラインツールやコーディングエージェント向けのスキルを使ってプロジェクトを立ち上げられることや、Cloud Run・Gemini Enterprise Agent Runtime・GKEへのデプロイ設定を自動生成できることも紹介されています。また、ワークフロー実行エンジン「ADK 2.0 Graph Workflow」は、GoがPythonに次いで対応し、TypeScriptも対応しています。Kotlinは実験的な対応と説明されています。今回の公式ブログからはJava版の対応状況を確認できません。
なぜ重要なのか
これまでAIエージェント開発のフレームワークは、Pythonに強い研究者・データサイエンティスト向けのものが多く、Go・Java・Kotlinを使う企業のバックエンド開発者やAndroidエンジニアにとっては、既存の開発言語や社内の技術選定を崩さないとAIエージェント開発に参加しづらい状況がありました。ADKが5言語に対応し、しかもMCP・A2Aという共通の規格を全言語で共有する設計を取ったことで、組織内の異なるチームが、それぞれ使い慣れた言語でエージェントを作りながら、互いに連携させやすくなる可能性があります。
特にKotlin版が、ネットワーク接続なしでAIエージェントのループ全体をAndroid上でローカル実行できると説明している点は注目に値します。常時クラウドに接続しなくてもAIエージェントが動く設計が広がれば、通信環境に左右されない機能や、データを端末外に出したくない用途での活用が進む可能性があります。AIエージェント開発、気づけば「Pythonが書けるか」の話ではなく「どの言語で書きたいか」の話になっていた。
私たちへの影響
ADKは開発者向けの基盤であるため、一般の利用者が直接触れる機会はありません。ただし、普段使っているスマートフォンのアプリや業務システムの裏側で、こうした複数言語対応のAIエージェント基盤が使われるようになれば、オフラインでも動作するAI機能や、特定の言語・環境に縛られない形でのAI機能の実装が進む可能性があります。
企業のシステム開発を担当する立場からは、既存のGo・Java・Kotlinによる開発資産やチーム体制を維持したまま、AIエージェント機能を段階的に組み込める選択肢が増えたことになります。一方で、同じ機能を複数の言語で別々に実装・保守することになる場合、どの言語版を採用するかの技術選定や、言語間での機能差(Graph Workflowの対応状況など)を把握しておく必要があります。
初心者が知っておくべきこと
「AIエージェント」とは、与えられた目標に対して、人間が一つひとつ指示を出さなくても、自律的に計画を立てて複数の作業を実行するAIの仕組みのことです。
「MCP(Model Context Protocol)」とは、AIが外部のデータやツールを呼び出す際の、共通のやり取りの手順を定めた規格です。「A2A(Agent2Agent)」とは、異なる企業・言語で作られたAIエージェント同士が、インターネットの標準的な通信方式(HTTP)を使ってやり取りできるようにする規格です。MCPが「AIとツール」をつなぐ規格、A2Aが「AIエージェントとAIエージェント」をつなぐ規格だと整理すると分かりやすくなります。
Q. この発表を受けて、一般の利用者が今すぐ何か設定を変える必要がありますか?
A. 出典で確認できた範囲では、ADKは開発者向けのソフトウェア基盤であり、一般利用者が直接設定を行う対象ではありません。今回の発表による利用者側の操作は必要ありません。
IT Postの見方――言語の壁を壊すのは正しい、ただし壊した後の片付けは誰がするのか
IT Postは、ADKが5言語に対応した判断そのものは筋が通っていると見る。これまで「AIエージェントを作るならPythonを覚えろ」という事実上の縛りは、企業の既存の開発体制を無視した乱暴な前提だった。Go・Java・Kotlinの開発者を無視してきた分の借りを、ようやく返しに来たという感じである。
ただ、5つの言語で同じ機能を維持し続けるという宣言は、裏を返せば5つの言語のどこかで不具合が出てもおかしくないということでもある。Graph Workflowが言語によって「一部対応」「実験的」とバラつきがある時点で、早速その気配は出ている。看板は多言語対応で立派だが、実際に全部の言語で同じ品質を保ち続けられるかは、Googleの開発チームの体力勝負になるだろう。IT Postとしては、せっかく開いた間口を、半年後にひっそり縮める展開にならないかを見ておきたいと考える。※個人の感想です
今後どうなりそうか
公式発表では、今後さらに対応言語や機能が増える計画があるかどうかは明らかにされていません。ADK 2.0のGraph Workflowのように、言語ごとに対応状況が異なる機能が今後どこまで揃っていくか、また異なる言語で作られたエージェントがA2Aを通じて実際にどこまで連携して使われるようになるかが、今後の注目点になりそうです。IT Postでは、新しい情報が確認され次第、あらためて取り上げます。