AI・生成AI Cloudflareの新AI『Clef』はなぜ文章を書かずに確率だけ返すのか。『決定モデル』という発想を確認する Cloudflareは10月1日、文章を生成せず「はい・いいえ」や選択肢の確率だけを返す新型AI「Clef」「Clef-flash」を発表。Apache 2.0で重みも無料公開した
まず初めに
AIといえば「何でも答えてくれる」ことが売りだと思われがちだが、Cloudflareが出してきたのは真逆の発想だ。文章を書かない、おしゃべりもしない、「はい」か「いいえ」か、選択肢のうちどれが一番マシか、確率で答えるだけ。地味に聞こえるが、サポート対応の振り分けや不正検知のように「結論だけ速く正確に知りたい」場面では、長文で饒舌に語る汎用AIより、こういう無口で速いAIのほうがよほど頼りになる。派手さでは勝負せず、速さと的確さで殴りにきた、という感じのリリースだ。※個人の感想です
何が起きているのか
Cloudflareが発表した「Clef」「Clef-flash」は、同社のAI基盤サービス「Workers AI」チームが初めて自社で学習させたモデル群です。両モデルとも、中国企業アリババが開発した基盤モデル「Qwen」をベースに追加学習(ポストトレーニングぽすととれーにんぐ )されています。Clefは270億パラメータのモデルで、Qwenの「3.8-27B」を土台に、rank-256のLoRAろーら (モデル全体を再学習せずに一部だけ効率的に調整する手法)アダプターを追加して作られています。より高速な動作を優先したClef-flashは、90億パラメータの「Qwen 3.5-9B」をベースにしています。
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
決定モデルは、サポートチケットの内容やWebページ、AIエージェントの実行履歴といった「状態」と、あらかじめ型で定義された質問を受け取り、「はい」である確率、選択肢の中でどれが最も当てはまるか、あるいはデータが尺度上のどこに位置するか、といった確率を返します。文章を1トークンずつ生成する通常の大規模言語モデルたいきぼげんごもでる (LLM )とは異なり、Qwenによる入力の一括処理(プリフィル)のあと、あらかじめ決められた選択肢を並行して採点するだけなので、文章を逐次生成する自己回帰型のモデルより高速に動作するとされています。発表によれば、Clef-flashは競合する決定モデル「Jev」(TypeSafe社の「System One」が提供)と比べて、約13倍速いとしています。両モデルともビジョンエンコーダ(画像を理解する機能)を備え、トレーニング時の対応は26万トークンのコンテキストウィンドウ、実際にホストされている上限は6万4,000トークンです。APIはJevと互換性があり、既存のJev利用者がそのまま乗り換えられる設計になっています。あわせて、強化学習(RL)によるファインチューニング(追加学習)のプラットフォームも新たに発表されました。
なぜ重要なのか
生成AIの多くは「何でも答えられる汎用性」を競っていますが、Clef・Clef-flashは逆に、用途を「構造化された判断」に絞ることで速度と精度を高めるという方向性を示しています。サポートチケットの自動振り分け、不正な投稿の検知、ユーザー行動の分類といった、企業の業務システムの中で繰り返し発生する「判定」作業は、必ずしも長い文章を生成する必要がなく、確率という形で素早く結果が返ってくる方が実用的な場面が多くあります。
また、重みをApache 2.0ライセンスでHugging Faceに無料公開した点も特徴です。クラウド事業者が、自社のクラウド基盤(Workers AI)への誘導を主目的にしつつも、モデル自体は自由に持ち出して使える形で公開するという、近年のオープンウェイトおーぷんうぇいと モデルの流れに沿った展開と言えます。
私たちへの影響
一般の利用者がClef・Clef-flashを直接使う場面は少ないと考えられますが、企業のカスタマーサポートや不正検知システムの裏側でこうした決定モデルが使われることで、問い合わせへの回答速度や、不正な投稿・取引の検知スピードが向上する可能性があります。開発者にとっては、既存の決定モデル「Jev」からAPIを変更せずに乗り換えられる設計である点も実務上のメリットになります。
初心者が知っておくべきこと
「決定モデル」という言葉は今回のCloudflareの発表で使われている独自の分類ですが、考え方自体は目新しいものではなく、従来から「分類器(Classifier)」と呼ばれてきたAIモデルに近い役割を持ちます。違いは、近年の大規模言語モデルの技術を土台にしつつ、出力を自由な文章ではなく、あらかじめ決められた選択肢の確率に絞っている点です。文章を生成しない分、同じ計算資源でより速く、より多くの判定をこなせるという利点があります。
IT Postの見方
IT Postでは、Cloudflareが「何でも答えられる生成AI」競争から一歩引いて、業務で実際に必要とされる「速い判定」に特化したモデルを投入した判断を、合理的な一手だと評価します。一方で、サポート対応や不正検知のような、個人の扱いに直結する判断を、確率を返すだけのAIに委ねる場面が広がることについては、その判定基準がどのように学習され、どの程度の精度で運用されているのかを、利用する企業側が利用者に対して説明できる体制を整えておく必要があると考えます。速さと的確さだけが強調され、判断の根拠がブラックボックス化しないよう、利用企業側の運用姿勢が問われる技術だというのがIT Postの見方です。※個人の感想です
今後どうなりそうか
Cloudflareは今後、強化学習によるファインチューニングのプラットフォームを通じて、企業が自社データに合わせてClef・Clef-flashを調整できる環境を提供していくとみられます。決定モデルという分野で競合する「Jev」との競争も含め、IT Postでは今後の展開を追って取り上げます。