30秒で分かる結論
Googleは2026年9月4日、音楽生成モデル「Lyria 3.5」をGeminiアプリとGemini APIで利用できるようにしたと発表しました。Geminiアプリでは、ジャンルを選ぶか文章で説明し、歌入りか楽器のみかを選んで曲を作れます。曲の長さは短いものと長いものから選べ、背景音楽や誕生日向けの曲などをすぐ作り始められるテンプレートも追加されました。提供対象はWebとモバイルアプリの全世界の利用者です。なお、Lyria 3.5というモデル自体は2026年7月29日にGoogle Flow Musicで先に公開されており、今回はその提供先が広がった発表です。
まず初めに
IT Postでは、音楽生成AIというものに、ずっと妙な感情を抱いてきた。
これまでのAI作曲は、たいてい「すごい」と「で、これをどこで使うの」の間で止まっていた。技術デモとしては見事だが、日常には接点がない。ところが今回、それがGeminiアプリに入った。つまり、天気を聞くのと同じ場所に、作曲がある。壮大な音楽革命の話ではない。動画の後ろでうっすら鳴る音を、素材サイトを30分徘徊せずに手に入れる話だ。そういう地味な便利さのほうが、たいてい世の中を変える。
※個人の感想です
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
何ができるようになったのか
Googleの公式ブログによると、Geminiアプリでは次のような操作で曲を作れます。
- ジャンルを選ぶか、どんな曲かを文章で説明する
- 歌入りか、楽器のみかを選ぶ
- 短い曲か、長めの曲かを選ぶ
- 用意されたテンプレートから始める
テンプレートは、背景音楽から誕生日向けのオリジナル曲まで、目的からすぐ作り始められるようにするものだと説明されています。
ここまで手順が減ると、もはや作曲というより注文である。
Lyria 3.5について、Googleは同社の最も良い音の音楽生成モデルだとしており、以前のモデルより表現力のある歌声と、豊かな編曲、高い忠実度をもたらすとしています。
どこで使えるのか
公式ブログが挙げている提供先は次の通りです。
| 提供先 |
対象 |
| Geminiアプリ(Webとモバイル) |
全世界の全利用者 |
| Gemini API |
開発者 |
| Google AI Studio |
開発者・技術者 |
| Google Flow Music |
アーティストやAIを使う制作者 |
| Google Vids |
Workspaceの動画作成 |
つまり、一般の利用者が触るのはGeminiアプリ、自分のサービスに組み込みたい人はGemini APIやGoogle AI Studio、という整理になります。
APIは、ソフトウェア同士が機能を呼び出すための窓口です。ここに音楽生成が入ったということは、他社のアプリの中に「曲を作る」ボタンが増えていく可能性がある、ということでもあります。
「今回が初登場」ではない点
見出しだけを見ると新モデルの発表に見えますが、Lyria 3.5そのものは2026年7月29日にGoogle Flow Musicで先に公開されています。そのときGoogleは、音楽性、歌詞、歌声、制作上の制御の各面での改善を挙げていました。
今回の9月4日の発表は、そのモデルを一般利用者の手元まで広げたものです。IT Postでは、モデルの初公開と提供先の拡大を区別して扱います。「新しいAIが誕生した」ではなく、「すでにあったAIが、普通のアプリに入った」というのが正確な理解です。
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
書かれていないこと
今回IT Postが確認した公式ブログの範囲では、次の点についての記載はありませんでした。
- 生成できる曲の正確な最大の長さ(短い曲と長めの曲を選べる、という説明にとどまります)
- 作った曲の商用利用を含めた権利の扱い
- 生成物であることを示す電子的な透かしの有無
このうち権利の扱いは、実際に使う人にとって最も重要な部分です。動画やお店のBGMなど、人に見せる場所で使う予定がある場合は、利用時点の利用規約を自分で確認してください。他社の記事や本記事の説明ではなく、規約が唯一の根拠になります。
日本の読者にとって何が変わるのか
第一に、動画や配信をする人にとっては、素材探しの手間が減る可能性があります。フリー素材の利用条件を1つずつ読む作業は、地味に時間を奪います。
第二に、音楽を作る人にとっては、下書きの道具として使える可能性があります。頭の中のイメージを、言葉から一度音にしてみる、という使い方です。
第三に、注意点があります。生成された曲が、既存の楽曲に似てしまう可能性は、この種のモデルに共通する論点です。公開する前に自分の耳で確認する必要は残ります。
そして第四に、これは音楽業界にとって無視できない変化です。BGMのような用途で人が作った曲が使われてきた領域に、追加費用のかからない選択肢が入ってきます。IT Postでは、この影響がどう出るかは今後の観察対象だと考えます。
用語の整理
| 言葉 |
意味 |
| 生成AI |
文章や画像、音楽などを新しく作り出すAI |
| API |
ソフトウェア同士が機能を呼び出すための窓口 |
| プロンプト |
AIに与える指示文。ここでは、どんな曲かの説明 |
| テンプレート |
あらかじめ用意された雛形。選ぶだけで作り始められる |
よくある疑問
追加料金はかかるのか。
公式ブログは、Geminiアプリで全世界の全利用者が利用できるとしています。ただし、利用回数や品質の上限が契約内容によって異なる可能性については記載がありません。実際の条件はアプリ内の表示で確認してください。
日本語の歌詞でも作れるのか。
公式ブログには、対応言語についての具体的な記載がありません。実際に試して確認する必要があります。
作った曲を動画で使ってよいのか。
権利の扱いについて、今回確認した公式ブログには記載がありません。利用時点の規約を確認してください。
楽器ができなくても使えるのか。
使えます。ジャンルを選ぶか、文章でどんな曲かを説明する形なので、楽譜や演奏の知識は求められません。
IT Postの見方——革命ではない、それがいい
IT Postでは、この発表を「音楽が変わる」ではなく「素材探しが終わる」の話として評価する。
音楽生成AIの発表は、これまでどれも大げさだった。誰でもアーティストになれる。音楽の民主化だ。壮大な言葉が並ぶ割に、実際に出てくるのは、どこかで聞いたような1分間だった。だから今回、Googleが誕生日の曲と背景音楽を例に挙げてきたことに、むしろ好感を持っている。正直だ。人はそれを作るのだ。交響曲ではない。
そして、たぶんそれでいい。世の中で必要とされている音楽の大半は、主役ではない。動画の後ろで鳴っている。店の天井から流れている。誰も歌詞を覚えていない。その領域を埋める道具として、これはよくできている。
一方で、素直に喜べない部分もある。書かれていないことが多すぎる。曲の長さの上限も、権利の扱いも、透かしの有無も、今回の発表では触れられていない。使う側にとって、そこが分からないまま「全世界で使えます」と言われても、公開する場所では使いにくい。楽しく作れる、で終わらせず、安心して出せる、まで説明してほしい。
もう1つ。この手の道具が広がると、BGMを作って生活していた人の仕事が細る。技術の進歩に文句を言う気はないが、便利になった側だけを見て「みんな幸せ」と書くのは不誠実だろう。誰かの30分が浮くとき、たいてい、どこかで誰かの請求書が1枚減っている。