30秒で分かる結論
Appleは2026年9月1日付で、最高経営責任者(CEO)をティム・クック氏から、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長だったジョン・ターナス氏(50歳)に引き継ぎました。クック氏の最終出社日は8月31日で、2011年8月にスティーブ・ジョブズ氏からCEO職を引き継いでから約15年での交代です。退任後のクック氏は取締役会の会長(Executive Chairman)に就き、各国の政策担当者との対話などに関わるとされています。この人事はApple自身が2026年4月20日に公式発表したもので、9月9日には新体制になって初めての製品発表イベントも予定されています。クック体制の約15年で、Appleの時価総額はおよそ3500億ドルから4兆ドル超へと10倍以上に拡大し、年間売上高は2011年度の約1080億ドルから2025年度の約4160億ドルへとおよそ4倍になりました。App StoreやiCloud、Apple Musicなどの「サービス」事業は、同じ期間に年間売上約94億ドルから1000億ドル超へ伸び、iPhoneに次ぐ第2の柱に育っています。MacRumorsのまとめによると、Appleが配当と自社株買いで株主に戻した資金は2012年以降で1兆ドルを超えます。一方で、生成AIやSiriの出遅れ、自社アプリへの広告掲載、App Storeをめぐる各国の規制対応など、クック体制への批判も積み重なってきました。
まず初めに
CEOが代わるたびに始まる恒例行事がある。「あの人はプロダクトの天才だったのか、それとも数字を数えるのがうまいだけの人だったのか」という品評会だ。クック氏についても、15年間ずっと判で押したように開かれ続けた。だが決算書は嘘が下手だ。時価総額10倍、売上4倍、25億台の現役デバイス。数字を数えるのがうまいだけでここまでやれるなら、世界中の経理部はとっくに全員CEOになっている。クック氏が地味に見えたのは、彼が作り替えた場所が地味だったからにすぎない。舞台の袖にある配管と、倉庫の棚と、決済の裏側。派手ではないが、Appleというショーを15年間止めずに回し続けたのは、まさにそこだった。※個人の感想です
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
ティム・クックが引き継いだもの
クック氏がCEOに就いた2011年8月は、創業者のスティーブ・ジョブズ氏が健康上の理由で職を退く直前でした。クック氏はそれ以前、最高執行責任者(COO)として、部品の調達や工場との交渉、在庫管理といった「モノを作って届ける」部分を長く統括してきた人物です。表舞台で新製品を発表するタイプではなく、供給網(サプライチェーン)を効率化する専門家として評価されていました。
ジョブズ氏の後任という重圧のなかで始まったクック体制は、当初「守りの経営」と見られがちでした。iPhoneやMac、iPadという既存の製品を引き継ぎ、大きく傷つけずに次へ渡すことが最初の仕事だったからです。
15年間の通信簿——数字で見る
複数の集計を総合すると、クック体制の約15年間でAppleの規模は次のように変わりました。
時価総額は、2011年8月のおよそ3500億ドルから、2026年には4兆ドルを超える水準に達しました。Appleは2018年に米国企業として初めて時価総額1兆ドルに乗せ、その後2兆ドル、3兆ドルの大台も最初に突破しています。年間売上高は2011年度の約1080億ドルから2025年度の約4160億ドルへ拡大しました。四半期1回の売上が、就任した年の年間売上を上回るようになった。
サービス事業の伸びが特に大きく、2011年に年間約94億ドルだった売上は、2025年度には1000億ドルを超えました。現在Appleは世界で25億台を超える現役デバイスを抱え、その上で有料サブスクリプションや手数料収入を積み上げる構造になっています。The Motley Foolの試算では、クック在任中の株主総リターンは配当込みで約2150%に達します。
クックが本当に作ったもの
ここが今回いちばん振り返る価値のある部分です。クック氏の「作品」は、Apple Watchでもゴーグル型のVision Proでもありません。もちろんそれらも在任中に登場しましたが、開発の主役は別のチームです。
1つ目は、世界でも指折りの精密さで動く供給網です。世界中の部品メーカーと工場をつなぎ、年に2億台規模のiPhoneを、発売日にほぼ全世界へ同時に並べる仕組み。これはクック氏がCOO時代から磨き続けた、Appleの隠れた基幹インフラです。
2つ目は、サービス事業です。ハードウェアは一度売れば買い替えまで収入が途切れますが、サブスクリプションや手数料は毎月入ってきます。クック体制はこの「積み上がる収入」をゼロから1000億ドル規模へ育て、Appleを「製品を売る会社」から「製品の上で商売を続ける会社」へと組み替えました。
3つ目は、自社設計の半導体への移行です。AppleはMacの頭脳を、他社製のプロセッサーから自社設計のチップ(Apple silicon)へ切り替えました。2020年に方針を発表し、数年かけてほぼ全機種を入れ替えています。性能と電力効率を自社でコントロールできるようになったこの決断は、後述するMacの思わぬ復活にもつながっています。
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
批判もあった
15年をきれいごとだけで終わらせるのは公平ではありません。クック体制には一貫した批判もついて回りました。
最も多いのが「革新が止まった」という指摘です。iPhone以降、社会を作り替えるような新カテゴリーの製品をAppleは生み出せていない、という見方は根強くあります。特に生成AIの分野では、音声アシスタントのSiriを含めて競合に出遅れたと評価されています。
また、地図やニュースなど自社アプリへの広告掲載が増えたことについては、「利用者の体験より株主価値を優先している」という批判が投資家からもユーザーからも出ています。App Storeの手数料をめぐっては、EUや各国の規制当局との対立が続いてきました。
Macが思わぬ形で主役に
皮肉な話があります。クック氏が最後に手渡すMac事業が、いま静かに絶好調なのです。Appleの2026年度第3四半期(4〜6月)のMac売上は約103億ドルで、前年同期比およそ29%増でした。
背景の一つとして海外メディアが報じているのが、AI企業によるMacの大量購入です。米メディアのThe Informationは、OpenAIが数万台規模のMac miniとMac Studioを、AIの学習用途で購入したと報道しました。この件はApple・OpenAIとも公式には認めておらず、詳しくは後続の記事で検証します。パソコンとして設計されたMacが、AIのデータセンター向け機材として引き合いに出される——クック氏が進めた自社チップ移行が、退任のタイミングで思わぬ配当を生んでいる形です。
IT Postの見方
クック時代を一言で言うと、Appleを「魔法の道具を売る会社」から「25億台の端末の上でサブスクと手数料を回す、世界最大級の集金マシン」に作り替えた15年だった。これは悪口ではない。事実として、そのおかげでAppleは4兆ドルの会社になり、株主は文字どおり桁違いに豊かになった。
ただ、代償もはっきりしている。「次に何が出るんだ」というワクワクは、この15年でほぼ消えた。クックのAppleは、驚かせる会社ではなく、外さない会社になった。年に一度、去年より少し速いスマホが出て、サービスの値段がじわじわ上がる。株主にはこれ以上ない優等生だが、ジョブズの列に並んで徹夜した人たちが期待していたものとは、たぶん違う。
だからクックへの評価は、立場で割れて当然だ。経営者としては歴代最高クラス。発明家としては——そもそも本人が一度もそこを目指していなかった、というのが正直なところだろう。ターナス体制がこの「外さないApple」を維持するのか、それとも眠っている「驚かせるApple」を起こすのか。答え合わせは9月9日から始まる。※個人の感想です
初心者が知っておくべきこと
Q. CEOが代わると、iPhoneやMacの使い勝手はすぐ変わりますか?
A. すぐには変わりません。製品の開発は数年がかりで進むため、当面発売される機種は現在の計画に沿ったものです。日常の使い方への直接の影響はほぼないと考えてよいでしょう。
Q. ティム・クック氏はAppleを完全に去るのですか?
A. いいえ。CEOは退きますが、取締役会の会長として会社に残ります。主に各国の政策担当者との対話などを担うとされています。
Q. 新しいCEOのジョン・ターナス氏はどんな人ですか?
A. 2001年にAppleへ入社し、長くハードウェア開発部門を率いてきた技術者出身の人物です。iPhoneやMac、iPadなど主要製品の設計を統括してきました。
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
今後どうなりそうか
新体制で最初の大きな節目は、2026年9月9日(日本時間9月10日)の製品発表イベントです。CEO交代後初のイベントで、基調講演をターナス氏が務めるかどうかも含めて注目されています。詳しくは9月9日のAppleイベントの記事で解説しています。IT Postでは、ターナス体制がクック流の「手堅い経営」をどこまで受け継ぎ、どこで独自の色を出すのかを、今後の製品と決算の両面から追っていきます。