30秒で分かる結論
Hugging Faceは2026年9月3日、AIエージェントとの過去のやり取りを手元に索引して、あとから呼び出せるようにする道具「funes」を公開しました。対象はClaude Code、Codex、pi、Hermesのセッション記録です。検索に使う処理は利用者のパソコン上で動き、funes自体は文章を生成するモデルを持ちません。記憶を他人と共有する場合はHugging Faceのデータセットとして扱われ、既定では非公開です。索引の時点で認証情報を取り除き、公開前にもう一度すべての断片を走査すると説明しています。
まず初めに
IT Postでは、いまのAIエージェントの最大の欠点は、賢さでも速さでもなく、記憶力だと考えている。
毎回そうだ。3時間かけて事情を説明し、方針を決め、やっと話が通じる相棒に育つ。そして次の日、新しいセッションを開くと、そこにいるのは初対面の顔をした他人だ。前回の結論を聞いても知らんぷり。おまけに来月には「もっと賢い後継モデル」が出て、また一から自己紹介が始まる。これでは相棒ではない。よくできた金魚だ。
※個人の感想です
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
funesは何をする道具なのか
Hugging Faceの解説によると、funesは、すでに自分のマシンに存在しているセッション記録を土台にした、持続する記憶の層です。
AIエージェントに仕事を頼むと、そのやり取りの記録がパソコンの中に残ります。ふつう、この記録はただのログとして積み上がるだけで、あとから中身を探す手段がありません。funesはこの記録を読み取り、決めたこと、その理由、調べて分かったことを、あとから引き出せる形に並べ直します。
対応しているのは、Claude Code、Codex、pi、Hermesの4つです。導入は funes add claude のような形で対象を追加し、質問は funes ask claude "知りたいこと" で行います。作業中のセッションからは recall で過去の記録を呼び出せます。
3日前の自分が何を考えていたかを、他人に聞く時代である。
手元で動くという設計
funesの特徴は、検索に必要な処理を利用者のパソコン上で行う点です。
文章を検索できる形に変換する処理と、候補の並べ替えを行う処理は、いずれも手元で動きます。funes自身は文章を生成するモデルを持ちません。つまり、過去の記録を要約して語り直すのではなく、探して差し出す役に徹しています。
検索の仕組みは、意味の近さで探す方式と、語句の一致で探す方式を組み合わせ、そのうえで候補を精査する処理と、新しい記録を優先する重み付けを重ねる構成です。片方だけでは、言い回しが違う記録を取りこぼしたり、逆に語句が同じなだけの無関係な記録を拾ったりします。
保存先は、手元の記憶と共有する記憶で分かれています。手元の記憶はローカルのデータ形式で保存され、共有する記憶はHugging Faceのデータセットとして扱われます。共有側は既定で非公開です。
認証情報の扱い
開発の記録には、うっかり貼り付けた鍵やパスワードが混ざりがちです。この点についてHugging Faceは、索引を作る時点で認証情報を取り除き、さらに公開する前にすべての断片をもう一度走査すると説明しています。
ただし、この種の除去処理が100%であると保証されたわけではありません。共有する記憶を公開設定に変える場合は、利用者側でも中身を確認するのが安全です。
生成AIによるイメージ。実物や実際の画面ではありません。
日本の読者にとって何が変わるのか
funesは開発者向けの道具で、コードを書く仕事をしていない人がすぐ使うものではありません。それでも、ここで起きている変化は一般の利用者にも関係します。
これまでAIの「記憶」は、各社のサービスの中にありました。ChatGPTに覚えさせた設定はChatGPTの中に、別のサービスに教えた前提は別のサービスの中に閉じています。乗り換えれば消えます。だから乗り換えにくい。
funesが示しているのは、記憶を利用者の側に置くという発想です。モデルは借り物でも、仕事の文脈は自分の持ち物にする。この考え方が広がれば、「使い慣れたから離れられない」ではなく「性能で選ぶ」に近づきます。
もう1つ、Hugging Face自身の立ち位置も気になるところです。同社は9月にNVIDIAによる買収の合意が伝えられており、公開する道具の方向性が今後どうなるかは、利用者にとって無関係ではありません。
用語の整理
| 言葉 |
意味 |
| AIエージェント |
指示を受けて、道具を使いながら自分で手順を進めるAI |
| セッション |
AIとの一連のやり取り。ふつうは閉じると文脈が切れる |
| 索引 |
あとから探せるように内容を整理して並べたもの |
| オープンソースソフトウェア(OSS) |
ソースコードが公開され、誰でも中身を確認できる形の配布 |
| 認証情報 |
鍵やパスワードなど、本人であることを示すための情報 |
よくある疑問
過去のやり取りが外部へ送られるのか。
検索に使う処理は手元で動くと説明されています。共有する記憶をHugging Faceのデータセットとして扱う場合のみ外部に置かれ、その既定は非公開です。
どのAIでも使えるのか。
公開時点で挙げられているのはClaude Code、Codex、pi、Hermesの4つです。それ以外については記載がありません。
funesが答えを考えてくれるのか。
funesは生成モデルを持ちません。過去の記録を探して差し出すところまでが役割で、それをどう使うかは、呼び出した側のAIと利用者に委ねられます。
無料で使えるのか。
オープンソースソフトウェア(OSS)として公開され、配布元はGitHubのhuggingface/funesです。ライセンスの種別については、公開された解説記事の中では触れられていません。
IT Postの見方——AIに記憶させるな、記憶を自分で持て
IT Postでは、この道具の価値は技術ではなく、その裏にある姿勢にあると考える。
各社はいま、記憶を囲い込みたがっている。当然だ。利用者の文脈をたっぷり抱えたサービスは、乗り換えられない。性能で3歩負けても、記憶で10歩勝てる。だからどこも「あなたのことを覚えています」と優しく言う。優しさの顔をした鎖である。
そこへ、記憶をこちら側に置く道具が出てきた。しかも検索処理は手元で動き、生成モデルすら持たない。過剰なことをしない道具は、たいてい信用できる。何でもやりますと言う道具ほど、何かを持って行く。
もっとも、これで全部解決するとは思わない。手元に記憶を置けば、今度は自分でその管理をする羽目になる。鍵の混入も心配だ。索引の時点で取り除くと言われても、開発の記録というのは驚くほど雑多で、こちらが忘れた恥ずかしいものまで律儀に保管されている。公開設定に触る前には、必ず自分の目で見たほうがいい。
そのうえで評価したい点は1つ。この手の話は、たいてい「新サービスに移行してください」で終わる。移行先で囲い込みが始まる。funesが選んだのは逆で、すでに手元にあるログを使う。新しく貢がせない。地味だが、利用者の側に立つ道具の顔をしている。
モデルは半年で入れ替わる。来年また賢いのが出る。その全部に毎回自己紹介をやり直すのは、もう勘弁だ。借りるのはモデルでいい。記憶まで貸してもらう必要はない。